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2020年02月01日

流氷パラドックスの愛と虚栄

流氷パラドックスの愛と虚栄

流氷とは流れている海氷である。

辞書や百科事典で見ると若干の表現の違いはあるものの「定着氷を除く海氷」で意見は一致しているようだ。

「定着氷」とは「海氷」の中でも岸に着いて流れていないものを呼ぶらしいが、流氷が見える地元で「定着氷」という言葉を聞くことはあまりない。

砂浜に打ち上げられて動かない氷は「定着氷」なのだろうが、日常的には「流氷」で話は通じている。


↓手前は定着氷、沖には流氷

手前は定着氷、沖には流氷

知床半島の流氷の場合、まず北海道の沿岸で凍った薄い氷が白い帯状に流れ出すのが見える。

その後、数日から数週間すると、沖から「流氷原」あるいは「流氷野」と呼ばれる大きな流氷が来る。

↓流氷原または流氷野

流氷原または流氷野

流氷のできる地方に住んでいると、波の無い湾や港などで海水がシャーベット状になり、蓮葉氷と呼ばれる小さな塊から、徐々に大きくなる流氷の成長過程を見ることができる。

オホーツク海北部から来る流氷原も、元を正せばこのような生い立ちで、北海道にたどり着くまでに徐々に大きく繋がり、上からの積雪も加わって氷原になったものだ。

 

大雑把に言えば知床で見える流氷には、地元で凍った薄い氷と北から来る分厚い氷の2種類があるということになる。

細かく言えば川で凍って流れ出したものもあるだろうし、流氷原が近づいたために波が無くなり、その後に凍ったものなどもある。

生い立ちはバラバラだが、どの段階でも流れている海氷は流氷だと辞典には書いてある。

 

ところが、中には「これは湾内でできた氷だから流氷じゃない」と主張する人もいる。

「流氷野」に関しては「流氷」だと一致しているが、意見が分かれるのは地場産の薄い氷だ。

大氷原を見たことのある人にとっては、流氷シーズンの初期に流れている薄い氷は物足りないからであろうか、「流氷」と認めない人もいるようだ。

↓これは湾内で凍ったもの、知床半島

湾内で凍ったもの

それを流氷と認めるかどうかは各自で勝手に思えば良いことなのだが、私が気になるのは観光客への影響である。

 

雪の無い暖かい地方から流氷を見たくて道東に来た人にとっては、海に氷が浮かんでいること自体が特別な体験である。

私は流氷を見ることができる場所に住み、現地で様々な意見を聞いているが、地元の人が「流氷がない」と言う日でさえも観光で来られた方からは「流氷が見えて良かった」とか「何回も来てやっと見えた」いう感動の言葉を何度も聞いている。

めったにオホーツク海に来れない人たちにとっての流氷の価値は、毎年何度も見ている人のものとは全く違う。

もちろん「こんなにある」と喜べるか「これだけしかない」と嘆くかはご本人の人間性にもよるのだが。

北海道と本州の大きさ比較

ほとんどの旅行者は札幌方面か女満別空港から流氷を見に来る。

その多くは観光船の出る網走や紋別で流氷を見る計画だ。

もちろん自然条件で流氷が見えない日もある、そしてそのまま帰る人もいるし連泊して翌日の流氷に期待する人もいる。

 

オホーツク海沿岸は、すべての場所で流氷が見える可能性はあるが、どこも同じ条件というわけではなく、場所や時間によっては全く無かったり海を埋め尽くすほどにあったりと、かなりの違いがある。

実際のところ網走で流氷が見えない日でも隣の斜里町で見えるという状況はかなり多い。

そんな時、斜里まで行けば見えるという情報が入手できれば、バスか汽車で1時間ほど移動するだけで流氷を見ることができる。

一度は見えないと思ったものが運良く見えたということであれば、ありがたみはさらに増すかもしれない。

 

↓この時の流氷原は知床半島に接岸、稚内から網走にかけては沖にある

流氷原は知床半島に接岸、稚内から網走にかけては沖にある

しかし残念なことに毎年こんな声を頻繁に聞くのだ。

「えっ?網走にも行こうと思ってたけど、流氷は無いって聞きましたよ」

写真を見せると

「そんなに沢山あったの?だったら行けば良かった」

などと、北海道旅行の終わった後に、実は流氷が存在していたことを知って、残念な思いをしている人のなんと多いことか。

 

こういった声が聞かれる理由の一つは、先に流氷観光に来た人が見えなかった場合、後から来る人に「今年は流氷が無い」と言ってしまうことである。

この人の今年の旅行では流氷を見る機会がなかったので、その時その場所には流氷が無かっただけなのだが、この話を聞いた人は、どこに行っても無いという印象を持ってしまいがちだ。

後から来た人が、このピンポイントの情報をうのみにして、少し移動すれば流氷が見えたのに、気が付かずに帰ってしまったのなら実にもったいないことだ。

先に観光に行った人に「今年は流氷が無い」と言われても、それは一部の意見として、セカンドオピニオンを取ることをお勧めする。

 

流氷があるのに無いと言われるもう一つの理由が、近海で凍った小規模な氷を流氷と認めない人たちの存在だ。

流氷野が無くて地場産の流氷しか見えない時に、「流氷は無い」あるいは「あれは流氷じゃない」と言うので、たとえそれが観光客にとっては流氷だと納得できる規模であっても、存在を無かったことにされてしまう。これを信じて流氷を見る機会を失ってしまう人がいたら、実に残念である。

 

↓否定派が流氷ではないと主張する湾内で凍った海氷 ちなみに写真は2020年1月28日の知床

否定派が流氷ではないと主張する湾内で凍った海氷

地場産流氷否定派の人には 「なぜこれが流氷ではないか」 の説明はしなくて良いから 「今の海はこんな感じ」 と言って写真を見せ、判断は見た人に任せていただきたいものである。

あるいは「流氷は無い」と言う代わりに「流氷原は無い」と言って頂くのはどうだろう?

もちろん黙っていて頂くだけでも良い。


今ではネット上で多くの情報が手軽に入手できて、流氷情報も例外ではない。

気象庁や海上保安庁のサイトでは数時間前の大きな流氷の動きが分かるし、知床の情報に限っては私のやっている「知床ネイチャーガイド星の時間」facebookページでもご覧いただける。

 

流氷観光に来られる方は、もし誰かに「流氷は無い」と言われても自分で少し調べてみることをお勧めする。

心の広いあなたになら楽しむことができる、小さくても美しい流氷に出会えるかもしれない。

  ネイチャーガイド星の時間 綾野






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Posted by starhours at 01:19│Comments(0)冬の知床
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